フランス ル・コルビュジエと現代建築の旅

G-2.ラ・ロッシュ邸

ラ・ロッシュージャンヌレ邸(Villas la Roche-Jeannerent1922-1925

ポワシーからパリ中心部に戻り,次はラ・ロシュ邸見学の為(M9)Jasmin(ジャスミン駅)に向かいました。駅からはラ・ロッシュ邸まで歩いて10分位です。ジャンヌレ邸にあるコルビュジエ財団(Fondation le Corbusier)の案内表示が道に沿って有りました。Rue du Docteur Blanche(ドクターブラッシュ通リ)の55番地を目指します。そこには半開きの鉄の門がありその中の小道を進みます。両側の木が茂っていて先が見えにくく本当にここかなと少し不安になるところですが突き当りにロッシュ邸が見えてきました。道は下り敷地は落ち込んでいる様です。建設されて直ぐに水害に見舞われたのが理解できます。

ここにコルビュジエの友人の銀行家ラ・ロッシュ氏のギャラリーと住宅、その手前に接して実兄のアルベール・ジャンヌレの家が1925年作られました。ただし、現在はジャンヌ邸にはコルビュジエ財団の本部が有り公開されているのはラ・ロッシュ邸だけです。

ところでジャンヌレ邸側にはコルビュジエ財団の図書館があり、財団のHPよりその利用を申し込めます。私もせっかくの機会なので利用をメールで問い合わせてみた処、調べたい内容、目的等聞いてこられました。こちらは正直時間もなくちょっとどんなところか見てみたい程度だったので失礼になってはいけないと思い辞退しました。それなりに相談すれば親切に対応していただけそうで、もし何か調べたいことがあれば、時間に余裕を持って利用されると新しい知見が得られるかもしれません。

奥がラ・ロッシュ邸、手前がジャンヌ邸(コルビュジエ財団)

ところで、今まで写真で見ているロッシュ邸=ジャンヌレ邸は白い外観ですが、目の前にあるのはきれいなクリーム色の建物です。後程わかったのですが2015年コルビュジエ歿後50年の節目に合わせ、外壁をオリジナルの色に塗り戻した為だそうです。今までこの頃はコルビュジエの「白の時代」など言われていた事には何か違和感がありますね。綺麗な外観からとても1920年代の建物には見えません。ロッシュ邸とジャンヌレ邸の建物は一体であり二つつ並んだ車庫の間に境の壁があるようです。そのロッシュ邸の方の食堂だったところの二階の窓はところどころ開けられていて、カーテンが外に少し出て風に揺れています。見るとその窓は引き違いではなく内開きです。でも風通しがいいようです。よく見るとギャラリー上部の窓も右端の窓が折り込む様に開いています。さすがに当時は空調はなかったのでしょう。でも連続窓は光だけでなく風の流れをもうまく作り出している様です。1920年代の風を感じます。これってECOだなと思うと共に何か忘れていた昔の生活感を思い出させます。

ロッシュ邸はコルビュジエの”近代建築の五原則”が発表される前の建築になりますが、既に五原則が反映されていると言われます。特にピロティはここで初めて採用との事で、そのギャラリー下に入ってみます。ギャラリーは大きくは建物の壁と反対側のほぼ壁の様なピロティで支えられており、その間に円柱と角柱のピロティが三本使われています。当時の技術ではやはりここに支えが必要だったのでしょうか。ギャラリーのカーブにうまくマッチして全体の造形が引き締まっている様に見えます。デザイン上からも付け加えられたように見えました。

さて中にはどうやって入るのかと思った時、横のドアに呼び鈴を見つけました。とりあえず鳴らしてみると、少ししてドアが開き中から財団のSさんが顔を出され「こんにちは」と日本語のあいさつです。なんだかどこかの知り合いの家を訪問に来たようです。「入っていいですか?」と聞きます。今は、コルビュジエの世界遺産への登録が推薦されたのを記念して(訪問時は登録決定前)、コルビュジエの建築の資料を展示しているので是非見てくださいと言われました。シューズカバーを渡されてそれを着けて後は自由にに見学です。

中に入って少し進むと一気に天井が高い吹き抜けになり、左右に階段が見えてやっぱり普通の家とは違う事が直ぐ分かります。向かって左側がギャラリーへ、右は居住エリアのようです。

住居側、右はギャラリー(手前側)に通じる渡り廊下

それでちょっと右にあるトイレをお借りした時、居住エリアの奥の方が明るいので進んでみると、そこはキッチンでした。こんな奥なのにとても明るい。見上げると天井は全面ガラスのトップライト。更に隣のスペースのそれを生かして境はガラスで採光に大変工夫がされています。先程訪問したサヴォア邸のキッチンとは条件が全く悪いけど、そうした中でも光への訴求は前から強くあった事が分かります

気になるのはギャラリーです。二階の入り口に向かいます。

入り口からロビー方向を振り返ると、そこに見える構図が印象的です。パステル調の色とはっきりした床の黒、難しくは建築的ポリクロミーとかいうのでしょうがとにかく美しい。それに細い手すり、大きく開かれた窓枠が絡み合ってその空間はコルビュジエらが当時提唱していたピュリスムを表している様に見えます。それはキュビジムのピカソなどの造形が深っかたラ・ロッシュ氏から、自由に作っていいと言われた事への芸術家そして建築家コルビュジエの答えの様に思いました。

ギャラリーに来ました。右上の窓には日差しが強いからでしょうかカーテンが引かれていますが、それでも柔らかい光が降ってきています。よく見るとバルコニーへのドアもガラス貼です。開放感のある空間です。部屋のほぼ中央にある黒大理石のテーブルは1928年の水害修復時にシャルロット・ベリアンらにより追加されたものだそうです。奥には有名なカッシーナの椅子LC50が置かれています。

そんな中、今の時期特別展示されているユニテ、ロンシャン、サボア邸とオリジナルのコルビジェの図面やスケッチを見ていきます。スケッチの中には検討案だったものも有り実際と異なるところを見ているだけで想像が膨らみ時間を忘れます。展示されている多くの建築は今週訪問したばかりですがなんだかとても懐かしく感じます。

コルビュジエのデザインと言われるカウチ

1928年設置シャロット・べリアンらデザインのガラス戸の収納ケース

いよいよスロープを上がっていきます。カーブしたプロムナードはその内側の近いところ、絵画が置かれる壁に自然と視点を向かせます。先程体験したサボア邸の屋上庭園に向かう直線的プロムナードが遠く外に向かって視野を広げさすのと対照的です

スロープの上から、部屋を見渡します。天井に向けた間接照明のバーが目に入ります。よく見ると向こうの壁面はクリーム色に色が加えられて、当時の色温度の低かっただろう光源で調和した空間が想像されます。部屋の中だけでなく、夕暮れ時クリーム色の外観に連続窓から漏れるあかり、どんな姿か見てみたいとも思いました。

 

 

最後に屋上に向かいました。ただ外には出ることが出来ず、外の景色を見るだけでした。当時と変わってなさそうな景色です。ラ・ロッシュ邸が建物に囲まれながらも空間を保った静かな環境、一つの絵の中にある事が分かります。その空間の中ではギャラリーをピロティーで浮かせることそして建物の色をクリーム色にする事の妥当性を感じました。昔から出来上がっている構図の中では新たらしく設置された携帯電話の基地局アンテナも景色の中に溶け込んでいます。