<その三>
ユニテに来たら実際の住まいを見学したいと誰でも思うのではないでしょうか。
マルセイユ観光局のモデルルームツアーが有りますが土曜だけの様で、ホテルに日曜にその機会がないか相談していました。そうしたところ、ホテルのコネで、日曜に在宅の方の了解が取れ訪問が実現しました。


お伺いしたお住まいはとても綺麗にされており、やはり人が生活されている場合のリアリティは違います。旅の後半訪れたパリの建築文化財博物館のユニテの再現部屋は良くはできていましたが所詮作り物ですね。
既に何度か見学者を受け入れられている様で、ツボを得て説明してくださいました。こちらも図面を持っていったので、二代にわたってお住いの中、ここはオリジナルとかここは改造したとか、その経緯も含めて話が盛り上がりました。
キッチンはコンパクトですが、今でも機能的との事で配膳窓の使い方を実演してくださいました。よく見る写真の通りの実物しかも実際に使われているのを見てまたまた感激です。

アメリカンキッチンと言われる棚

配膳窓
テラスの窓は木製ですがガラスはちゃんと二重です。マルセイユもミストラルでしょうか冬は風が強くて寒いとか。窓を開閉してみると音もちゃんと遮音されます。また窓枠には肘掛がついており、その下の暖房のカバーを兼ねた木製の腰掛に座ってくつろげるそうで居間に広がりを与えています。これはひょっとして隠れた“コルビュジエチェア”ではないでしょうか!?木製品がうまく使われているのが良く分かります。

木製の内階段にも興味深いところがありました。踏み板は奥が少し狭くなった台形で視覚的に上り下りを軽く感じさせているそうです。更に踏み板には横に1本深いスリットが入っていますが、このすべり止めは、小さなお子さんがここに指をかけて這ってでも上り下りできる目的も持っているそうです(ひょっとしてご本人の経験だったのかもしれませんね?) この階段や家具は同時代のフランスの建築家ジャン・プルーヴェ(Jean Prouve)のデザインと言われています。(彼の作品はバーゼル編:ヴィトラ・デザイン・ミュージアムでも触れます。)

裏のベランダにはお子さんの安全のために跳ね上げ式の保護フェンスが設置されていました。それと楽しくなるのは子供用といわれたシャワー室。水が飛び散らない様まるで船の中の様なカプセルになっています。こうした子供への心使いは、キッチンをデザインしたと言われるシャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand)の発想でしょうか。このカプセル型?シャワー室はコルビジェ自身気に入っていたのでしょう。後半訪れたパリのアトリエのコルビジェの寝室のシャワー室も同じ形をしていました。

ベランダの保護フェンス(普段は上に格納)

子供用シャワー室
あまり長居はできませんでしたが、拝見すればするほど、新たな発見がありそうです。
それにしても細部に至るまで戦後間もない時期にここまで工夫されているのは本当にすごいと思いました。「住宅は宝箱である。」もし訪問できる機会があれば、それぞれの方の感性で新たな宝箱を見つける事が出来るのではないでしょうか。
ふと思い出したのは1959年建設の東京のひばりが丘団地。数年前URの再生実証棟を見学する機会がありました。二階分の上下をぶち抜いてメゾネットにしたりとても面白い日本の団地の再生と思いましたが、思い出すにそれは半世紀を経てユニテに通じたところがありましたね。
因みに不動産物件としてはユニテの標準的タイプで4,000万円程度とのお話でした。ただ物件は中々出てこないそうです。
世界遺産に住むのは夢のまた夢ですが、半世紀以上経ても住みたいと思わせるコルビジェの設計はやはりすごいとしか言いようがありません。それは単に設計が優れているだけではなく、それがもたらした素晴らしいコミティが半世紀以上経ても今なお維持されている事においてです。
