

2階に下りると天井の高いアトリウムに出ます。大きなガラス面が開放的です。そのランダムな窓枠は修道院の設計に参加したヤニス・クセナキス(annis Xenakis)の“波動式の窓割り”といわれています。その窓を通して斜面上の建物、ピロティ、礼拝堂、さっき外でいたところが見えます。この構図は同じく斜面地に作られれているル・トロネ修道院の回廊を思い出させます。

アトリウムへ 左に食堂 奥に教会の入口
反対側に移動すると今度は食堂の”窓割り”を通してうねった丘の向こうに街並みが見えます。と言う事は街からもこの修道院が遠く見えているという事ですね。修道院は決して山の中に隠れて存在しているのではない様です。この斜面地を選んだ一つの理由を自分なりに理解しました。ところでよく見ると床も不規則なパターンで目地が入っています。“こちらは波動式の床”でしょうか?!

又ここからは教会への廊下が斜面に逆らうように下っています。アトリウムはこの建物の構図、そしてどのようなところに立っているかを良く感じられる場所です。
いよいよ教会への廊下を下り中に入ります。入口の大きな扉は閉まっており代わりに出入口用の小さなドアが開いていました。防音の為でしょうかドアは10cm以上の厚さです。

教会入口側からアトリウム方向


それをくぐって中に入ると思っていたよりも天井が高い大きな空間と天井隅からの光の帯が一気に目に飛び込んできました。直感的にル・トロネ修道院たと感じます。外からはわからない空間です。両サイドの窓は色彩を帯び明るく光を入れています。さらに“光の大砲”、“軽機関銃”とその光に引かれて教会の中を行ったり来たりです。自然光だけですがそれで十分な明るさがあります。



聖具納室と地下礼拝堂(”軽機関銃”の天窓の下)

”軽機関銃”の天窓の外観(右)
気つくともうミサが始まるお昼近くです。それで言われた通り教会の入り口、アトリウム側でミサの始まるのを待つことしました。しかし何の気配もありません。それで教会の中に戻ると丁度外から教会に直接入る小さな扉が開き十数人の老若男女の方が入ってこられました。考えてみれば普通は皆さん外から直接教会に入る出入り口を利用されるのですね。
修道士の方が聖書を持ってお出でになられ、皆、光の大砲の下にある小さな祭壇を囲んで集まりました。


お祈りが始まり賛美歌を歌います。参列の方々は進行が良く分かっておられるよう様で、時々起立されます。こちらも隣の方に遅れない様立ったり座ったりです。讃美歌も言葉にならないけど口を合わせます。緊張しっぱなしです。
そのうち修道士の方が参列者の一人に聖書を渡されその方の朗読、賛美歌が続きます。少し落ち着いてきて祭壇を見ると近くの光の大砲からの光が斜めからあたり柔らかい陰影を作っています。上を見ると、自分の方はまさに光の大砲の真下にいます。散乱した柔らかい光が降ってきています。歌声は逆に大砲に吸い込まれそうな感じです。そして気づいたのですが後ろに広がる教会の空間に歌声がわずかに響いています。後に現代音楽家としても名を残したヤニス・クセナキスの仕事が隠れているのかもしれません。そういえば向こうの壁にあるパイプオルガンはどんな響きなんだろう? この空間の奥深さへの入口を感じれる様でした。
ミサの終わりに、聖体拝領でしょうか皆さん修道士よりホスチアを口に受けられ先程の入口から其のまま出て行かれました。あっという間に又誰もいなくなりました。こちらはもう少し居たい気持ちが残りしばらく教会の配座の隅に座っていました。
差し込む光がさっきよりも一層綺麗に見えます。ミサを勧めてくれたDさん、そして今日見学を許可してくれたドミニコ会に本当に感謝です。
予定では昼食後も時間がある限り更に見学を続けるつもりでしたが、ミサの体験、そして昼食のワインも入ってもう十分との気持ちになりました。それに今日はまだリヨンでの見学もあるので早めにトゥーレット修道院を出発することにしました。
修道院を出ると続く並木道の脇では先程ミサに出席された方々が天気が良いので囲んでピクニックのように昼食をとられていました。皆親しい方々のようです。何か日本の法事の後の宴会のようですね。

ル・トロネ修道院の印象もあり、訪問前は修道院は人里離れた山の中で修道士の方々がひっそり修行されているといったイメージしか有りませんでした。しかし、ここラ・トゥーレット修道院では日々地域の方々と共に活動されている事が分かりました。
今回の見学でコルビジエの建築のすばらしさを自分なりにまた感じる事ができて本当に良かったと思いました。そして、地域の方々をはじめこの修道院に信仰を持って集われる方々をひきつけるものをコルビジェはこの建築のもっと深いところに埋め込んでいるのではないかとも感じました。それは“Corbuzier”として。
機会があるか分からないけど、次回は修道院に泊まってみなければ、と思った頃にはもうラルブレルの駅が下に見えてきていました。
